医療法人も一定の規模になると、会計監査を受ける義務が発生します。しかし「どんな医療法人が監査の対象になるのか」「監査法人に依頼する必要があるのか」など、制度の全体像を正確に理解している人は多くありません。
この記事では、医療法人・監査・対象という3つの視点から、監査の目的や基準、具体的な対象範囲についてわかりやすく解説します。これを読むことで、経営者や事務長が「自法人が監査対象になるかどうか」を判断できるようになります。
医療法人における監査の目的

なぜ医療法人に監査が必要なのか
医療法人に監査が必要なのは、公共性の高い資金を扱う法人として透明性を示すためです。医療法人は営利目的ではなく地域医療を提供する使命を持っているため、資金の使途や会計処理が明確でなければ社会的信頼を損ないます。例えば、大規模法人で新棟建設や医療機器購入に公費や補助金が含まれる場合、外部監査人のチェックがなければ不正や誤処理が見逃される可能性があります。監査を受けることで、こうしたリスクを早期に発見でき、経営の健全性を維持できます。つまり、監査は単なる義務ではなく、医療法人の信頼を守り、安定した運営を支える重要な手段なのです。
監査によって得られるメリット
財務諸表の信頼性向上:正確な会計情報により、行政や金融機関からの信頼が高まります。
経営リスクの早期発見:不適切な会計処理や資金流出の兆候を把握可能です。
職員のコンプライアンス意識向上:監査により内部統制が強化され、全職員が法令遵守を意識します。
監査はチェックだけでなく、法人の成長と信頼性向上に直結する仕組みとして機能します。
監査の対象となる医療法人の基準

医療法で定める監査対象の基準
医療法人が監査対象となるのは、規模が一定以上で公共性の高い医療事業を運営している場合です。医療法第51条の2に基づき、監査義務は透明で信頼性の高い会計情報を社会に示すために定められています。たとえば、貸借対照表の負債総額が200億円を超える、年間医業収益が100億円以上、職員数が1,000人以上といった条件に該当する医療法人は、会計監査人の設置が必須です。これにより、外部の専門家によるチェックが行われ、資金の適正運用や経営リスクの早期発見が可能になります。つまり、監査対象の基準は、法人規模に応じて信頼性を担保するための社会的ルールであり、健全な医療経営の維持に直結しているのです。
監査対象となる主な条件
負債総額200億円以上:大規模な資金運用には外部チェックが不可欠です。
年間医業収益100億円以上:多額の収益を伴う場合、透明性確保が重要です。
職員数1,000人以上:大規模組織は内部統制だけではリスク管理が不十分です。
都道府県知事が認めた場合:上記に準じる場合も監査対象となります。
これらの条件に当てはまる医療法人は、公認会計士や監査法人による外部監査を義務的に受けることで、社会的信頼と経営の安定性を確保できます。
監査の種類とその役割

会計監査と業務監査の違い
医療法人における監査は、会計監査と業務監査の2種類が存在し、それぞれ役割が異なります。会計監査は財務諸表の正確性を確認し、数字の信頼性を担保することが目的です。たとえば、診療収益や医療設備投資の会計処理が適切かどうかを外部の公認会計士が検証します。一方、業務監査は経営の効率性や適正性に注目します。具体的には、部門運営の効率性や内部統制の実効性を評価し、改善点を指摘することができます。つまり、会計監査は数字の正確性、業務監査は運営の健全性をそれぞれ確保する仕組みであり、両者が揃うことで医療法人の信頼性と持続可能性が高まるのです。
監査の実施主体
会計監査:公認会計士または監査法人が担当し、財務諸表の正確性や会計処理の適正性を第三者視点で確認します。
業務監査:監事や社外理事が担当し、経営運営の適正性や効率性を評価します。
このように、監査の種類ごとに実施主体が異なることで、それぞれの専門性を活かし、医療法人全体の健全な運営を支える役割を果たしています。
監査対象となる場合の対応手順

監査対象と判断されたら何をすべきか
医療法人が監査対象と判断された場合、まずは会計監査人を選任し、都道府県知事に届け出ることが最初のステップです。監査契約を締結した後、年度ごとに会計監査や業務監査を受ける流れになります。この手順は、財務の透明性と運営の適正性を社会に示すために不可欠です。たとえば、監査人は財務諸表だけでなく、理事会議事録や補助金関連資料の確認も行うため、これらの書類を整備しておくことが求められます。つまり、監査対象となった場合の初動対応は、書類準備と監査体制の整備を通じてスムーズな監査運営を実現することにあります。
監査に備えて整えるべきポイント
経理規程や内部統制の整備:会計処理のルールやチェック体制を明確化し、監査対応を効率化します。
固定資産や診療報酬債権の管理体制:資産や債権の正確な管理状況を示すことで、監査人の確認が円滑になります。
職員への会計教育:経理担当者や部門職員が会計知識を共有することで、監査対応の精度が高まります。
これらを整備することで、監査は「負担」ではなく、法人の信頼性向上と経営改善のチャンスとして活用できます。
Q&A:医療法人の監査に関するよくある質問
Q1. 小規模なクリニックも監査対象になりますか?
A1. いいえ。上記の基準(負債・収益・職員数など)に達しない限り、外部監査の義務はありません。ただし、任意で監査を受けることは可能です。
Q2. 個人開業医(個人事業主)も監査を受ける必要がありますか?
A2. ありません。医療法人ではなく個人事業形態の場合、医療法上の監査義務は発生しません。
Q3. 会計監査と税務申告の違いは?
A3. 会計監査は財務情報の「信頼性」を確認するもので、税務申告は「納税義務」を果たすための手続きです。目的が異なります。
Q4. 監査法人を選ぶ際のポイントは?
A4. 医療法人監査の実績、医療会計基準への理解度、報告体制の明確さが重要です。
Q5. 監査対象外でも監査を導入するメリットはありますか?
A5. はい。内部統制の強化や資金管理の透明化につながり、金融機関や行政からの信頼を高められます。
まとめ 医療法人の監査対象を正しく理解し、信頼される経営を実現しよう
この記事では、医療法人の監査について、「医療法人・監査・対象」という視点でわかりやすく解説しました。ポイントは以下の通りです。
監査の目的:医療法人は公共性の高い事業を運営するため、透明性の確保と経営健全化のために監査が必要です。
監査対象の基準:負債総額200億円以上、年間医業収益100億円以上、職員数1,000人以上、または都道府県知事が認めた場合に監査が義務化されます。
監査の種類と役割:会計監査は財務諸表の正確性を、業務監査は運営の適正性や効率性を担保します。
監査対応の手順:監査人の選任、届け出、資料準備、内部統制整備がスムーズな監査実施につながります。
監査対象となるかどうかの判断は、まず自法人の規模や収益・職員数を確認することから始めましょう。また、監査対象外の小規模法人や個人開業医でも、任意で監査を導入することで、内部統制強化や資金管理の透明性向上といったメリットがあります。
次のステップとしては、財務資料や経理規程の整備、監査人選定の検討を行い、医療法人の信頼性と安定経営を確実にすることです。この記事で紹介した内容をもとに、自法人が監査対象となるか、どのように対応すべきかを確認し、実務に役立ててください。



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