KAM(監査上の主要な検討事項)は、監査報告書で監査人が特に重要と判断した事項を伝えるものです。監査意見の一種類ではなく、KAMがあるだけで不正や不適正意見を意味するわけでもありません。監査意見との関係、証拠を得られない場合の判断、不正のトライアングルを、架空例と読む順番で整理します。

KAMに書かれているところは、不正が見つかったということか?

そうとは限りません。判断が難しい見積もりなど、監査で特に重要だった事項が書かれることもありますよ。
監査意見は財務諸表全体への結論
監査意見は、適用される枠組みに照らして財務諸表全体をどう評価するかという結論です。適正表示の枠組みでは、無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明を区別します。企業の将来の成功や、すべての不正がないことを保証するものではありません。
「適正意見があるから投資して安全」「赤字だから不適正意見」とは判断できません。赤字でも適切に表示されているかという問題と、企業が将来どの程度の利益を生むかという問題は別です。監査報告書の対象、期間、連結か個別かも最初に確認します。
虚偽表示と証拠不足を分けて読む
| 状況 | 重要だが広範ではない場合 | 重要かつ広範な場合 |
|---|---|---|
| 十分適切な証拠を得た結果、虚偽表示がある | 限定付適正意見 | 不適正意見 |
| 十分適切な証拠を得られず、未発見の虚偽表示の可能性がある | 限定付適正意見 | 意見不表明 |
表は適正表示の枠組みについての一般的な整理です。「重要性」は利用者の判断へ影響するか、「広範性」は影響が財務諸表全体へどの程度及ぶかを考えるための軸です。単に金額が大きいかだけで、すべての意見が機械的に決まるわけではありません。
出典・確認先:日本公認会計士協会・監査基準報告書705。
在庫の数量を確認できない、子会社の資料にアクセスできない等は、まず証拠を得られるかの問題です。別の手続で証拠を得られる場合もあります。証拠不足だけを理由として「不正が確定したから不適正意見」と説明するのは適切ではありません。
架空例で四つの結果を比べる
| 架空の状況 | 考え方 |
|---|---|
| 必要な修正と開示が行われ、証拠も得られた | ほかの条件も含め、無限定適正意見の可能性を検討 |
| 一部の重要な評価誤りが未修正、影響は広範でない | 限定付適正意見を検討 |
| 確認された重大な未修正の誤りが財務諸表全体へ広範に及ぶ | 不適正意見を検討 |
| 重要な資料を得られず、可能性のある影響が広範 | 意見不表明を検討 |
これは判断の違いを学ぶための架空例で、金額や科目名だけで実際の監査意見を判定する道具ではありません。修正の有無、代替的な監査手続、影響範囲、注記などを含む評価が必要です。報告書を読む側は、結論と、その根拠として書かれた事情を組にして確認します。
KAMは監査で特に重要だった事項を伝える
KAMは、監査役等とコミュニケーションを行った事項から選ばれます。監査人が特に注意を払った事項のうち、当年度の監査で特に重要と判断した事項です。すべてのリスクを並べた一覧や、各科目の合格証ではありません。
読みたい点は、なぜKAMとして選ばれたかと、それに対して監査人がどう対応したかです。財務諸表の関連する注記も併せて読みます。KAMの事項だけについて、財務諸表全体への監査意見とは別の意見が表明されていると受け取らないようにしてください。
出典・確認先:日本公認会計士協会・監査基準報告書701。
例えば架空の設備減損のKAMなら、将来の売上・利益の見積もりが重要であった理由と、監査人が事業計画や前提をどう検討したかを読みます。KAMに減損があるというだけで、設備に不正がある、来期に必ず損失が出る、と断定することはできません。
KAMと除外事項・継続企業の記載を混同しない
KAMを書けば、本来必要な除外事項付意見を出さなくてよいわけではありません。継続企業の前提に関する重要な不確実性等についても、それぞれの報告の役割があります。意見不表明の場合にはKAMを報告しないという取扱いもあるため、報告書の区分をまとめて「注意書き」と扱わないでください。
KAMの数が前年より増えたことや、同業他社より少ないことだけを危険度の順位にしないことも大切です。事業構成、取引、見積もり、監査上の判断は企業・年度で異なります。前期との差を調べるなら、関連する注記や事業の変更と照合します。
不正のトライアングルは、結論を出す判定表ではない
不正のトライアングルは、「動機・プレッシャー」「機会」「姿勢・正当化」という側面から不正リスクを考える枠組みです。要因があるだけで不正の発生が証明されたり、一定の点数で不適正意見になったりするものではありません。
| 側面 | 架空の状況 | 会社が考える対応例 |
|---|---|---|
| 動機・プレッシャー | 達成困難な売上目標に追われている | 目標の根拠を見直し、未達の説明を許容する |
| 機会 | 同じ人が取引先登録と支払承認を行う | 権限分離と独立した照合を検討 |
| 姿勢・正当化 | 来月戻せばよいと不適切な処理を許す | 訂正・相談の手順を周知し、実行する |
出典・確認先:日本公認会計士協会・監査基準報告書240。
表の対応を置くだけで不正を防げるという意味でもありません。実際に承認者が確認しているか、例外処理が放置されていないか、経営者が手続を無効化できないかも考えます。リスク要因を見つけたら、疑いだけで特定の人を断定せず、事実と証拠を確認する仕組みにつなげます。
監査報告書を読むための一枚メモ
- 対象企業、対象期間、連結・個別、監査報告日
- 監査意見と、除外事項がある場合の根拠
- 継続企業等の独立した区分の有無と内容
- KAMの事項、選定理由、監査人の対応
- 関連注記、前期から変わった条件、残る疑問
架空例として、KAMがのれんの評価なら、残高、関連事業、将来計画のどの前提が重要かをメモします。「監査人が検討したから見積もりが必ず実現する」という読み方をせず、見積もりの不確実性がどこにあるかを確認します。分からない点は、報告書の文章と会社の注記を区別して書き残します。
不適正意見や意見不表明を見つけたら
まず該当する年度・対象財務諸表と、意見の根拠を読みます。過年度の訂正、会社の説明、改善計画、取引所の公表等がある場合は、それぞれの公表日を確認します。「不適正意見なら即座に必ず上場廃止」と一律に結論づけず、適用される規則と実際の判断を調べる必要があります。
一方、結論の違いを軽く扱うのも適切ではありません。確認された虚偽表示なのか、証拠を得られなかったのか、その影響がどこまで及ぶのかを区別すると、会社へ確かめたい質問も具体的になります。監査報告書だけで投資等の判断を完結させず、財務諸表と事業の情報を併せて確認しましょう。

KAMから将来の不正を当てる、という読み方ではないんだな。

はい。意見、根拠、KAM、注記を順に読み、それぞれが伝えている内容を分けて考えることが大切です。
学習では、実際の報告書を一つ選び、一枚メモの項目を埋めるところから始められます。監査・レビュー・合意された手続の違いは、監査と合意された手続の違いも参考にしてください。どの業務が何を伝えるかを区別すると、報告書の結論を読み違えにくくなります。


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