MBOで会社が上場廃止になると、その株式の相続税評価も自動的に安くなるのでしょうか。結論からいうと、MBOの実施、上場廃止、株主の入替え、相続税の評価方法は別々の論点です。非上場になったという理由だけで一定の割引率を掛ける制度ではありません。
このページでは、MBOの仕組みと事業承継との関係、上場株式と取引相場のない株式の評価、売却や再出資で財産がどう変わるかを整理します。具体的な企業の取引条件や税額を判定するものではなく、専門家へ相談する前の確認項目として使ってください。

上場をやめれば、相続する株の評価は下がるんだろ?

自動的には決まらないんです。誰が何を持っているかと、評価する日の条件を確認します。
MBOは経営陣が参加する買収の仕組み
MBOはマネジメント・バイアウトの略で、経営陣が買収に参加する取引です。投資ファンドや買収のための会社を使う場合もあり、資金調達、公開買付け、少数株主の整理などを組み合わせて非上場化を目指すことがあります。MBOという言葉だけでは、個々の契約や資金の流れまでは分かりません。
上場廃止も、経営陣がMBOを発表した瞬間に自動で決まるわけではありません。公開買付けの結果、株式の取得や少数株主の整理、取引所の所定の手続きなどを確認します。公表資料にある予定日と、実際に完了した日を分けて記録してください。
事業承継は、経営を誰に引き継ぎ、株式や資金をどのように持つかという課題です。MBOを選択肢にする場合でも、経営の継続、資金返済、株主の意向を検討する必要があります。相続税評価額だけを目的に、事業のために必要な判断を逆転させないことが大切です。
出典・確認先:日本取引所グループ・上場会社に関するよくあるご質問(2026年11月5日確認)。
売買価格と相続税の評価額は別の数字
| 数字 | 使う場面 | 主な確認点 |
|---|---|---|
| 買収・売却の価格 | 株式を実際に取引する | 交渉、算定、契約、公正性 |
| 会計上の金額 | 取得や保有の会計処理 | 適用基準と取引内容 |
| 相続税・贈与税の評価額 | 課税時期の財産評価 | 財産の種類、株主区分、評価通達 |
| 手元に残る資金 | 売却後の資産と資金繰り | 取得費・税・費用、再出資、債務 |
買収価格を決める企業価値評価と、相続税・贈与税の財産評価を同じものとして扱わないでください。公開買付け価格があるから、どの時点の相続税評価も必ずその価格になる、という一律の説明もできません。課税時期の状態と、取引の内容を照合します。
例えば相続する人が、もとの事業会社の株式ではなく買収会社の株式を持つことになったなら、評価する財産自体が変わります。会社の資産や負債、株主構成も変化し得るため、MBO前の株価に任意の割引率を掛けるだけでは計算できません。
上場株式は課税時期と月平均を確認する
一般的な上場株式の相続税・贈与税評価では、課税時期の最終価格と、課税時期の月・その前月・前々月の最終価格の月平均額を比較する仕組みがあります。国税庁の説明では、課税時期の最終価格より低い月平均額がある場合は、そのうち最も低い価格を用います。
仮に課税時期の最終価格が3,000円、当月平均2,800円、前月平均2,600円、前々月平均2,700円とします。ほかの調整が必要ない通常の評価の仮例なら、比較する価格は2,600円です。1万株なら2,600万円となります。
ただし、売買がない日、権利落ち、負担付贈与などには別の取扱いがあります。この例をあらゆる取引へ当てはめないでください。上場廃止の前後に相続がある場合は、まさにその課税時期にどの財産であったかを確認します。
出典・確認先:国税庁・上場株式の評価(2026年11月5日確認)。
取引相場のない株式は株主区分から確認する
取引相場のない株式は、まず取得する株主が、評価上の同族株主等に当たるか、原則的評価か特例的な評価かを確認します。日常語の「同族経営」と、評価通達による同族株主の判定は同じではありません。法人税で使う同族会社という言葉だけで判定を代用することも避けます。
原則的評価では会社規模などに応じ、類似業種比準方式、純資産価額方式、それらの併用等を検討します。一方、同族株主以外の株主等については配当還元方式による評価があります。小さな持分だから必ず配当還元になる、と割合だけで結論を出さないでください。
株式等や土地等の保有割合が高い会社、開業後3年未満の会社など、特定の評価会社等には別の取扱いがあります。買収会社を新設した場合も、通常の会社規模の表にすぐ当てはめず、どの区分へ該当するかを先に調べます。
| 確認の順番 | 集める資料 | 早合点しやすい点 |
|---|---|---|
| 取得した財産 | 株券・持分・売買や再出資の契約 | 現金になったのか株式のままか |
| 株主の区分 | 本人と関係者の株主・議決権の資料 | 小口なら必ず配当還元とは限らない |
| 会社の状態 | 決算、資産内訳、設立・開業の時期 | 新設会社にも通常の方式を自動適用しない |
| 方式と計算 | 評価明細、比較する数値、調整事項 | 非上場だから一律割引ではない |
出典・確認先:国税庁・取引相場のない株式の評価(2026年11月5日確認)。
売却して現金になった場合も追う
仮に1万株を1株3,000円で売却すれば、売却代金の総額は3,000万円です。これは実際の価格を示すものではなく、財産の移り変わりを考える仮例です。取得費、税金、手数料等を差し引いた残額や支払時期は別に確認します。
売却後に現金を持つなら、その後の相続で対象となるのは元の株式ではなく、現金・預金などになり得ます。代金の一部を買収会社へ再出資すれば、預金と買収会社の株式などを分けて把握します。非上場化したから売却代金まで同じ割合で評価が下がる、という話ではありません。
買収会社が借入れをした場合、その負債がそのまま経営者個人の相続財産から差し引けるわけでもありません。誰が債務者か、保証との違い、会社の株式評価へどう反映するかを分けて確認します。会社と個人のお金の流れを一枚の図にすると整理しやすくなります。
MBOでは価格と手続きの公正さも重要
経営陣は会社の情報を多く持ち、買収する側にも関わるため、一般株主との間に利益相反や情報の差が生じることがあります。経済産業省の公正なM&Aの指針は、このような場面で企業価値の向上と株主の利益に配慮した手続きを検討する考え方を示しています。
独立した特別委員会による検討や株価算定、情報開示などの意味を確認し、経営者側に都合のよい安い価格を自由に設定できると考えないでください。具体的な案件では、その時点で適用される法令・取引所のルールと公表資料を確認します。
税務上の評価だけでなく、買収価格の妥当性、借入返済、少数株主への対応、取引後の事業計画を同じ資料で検討する必要があります。税の試算だけ先行すると、資金が不足したり、株主間で説明が食い違ったりする原因になります。
出典・確認先:経済産業省・公正なM&Aの在り方に関する指針等(2026年11月5日確認)。
相談前に時系列と所有者をそろえる
- MBOの発表日、売却日、上場廃止日、再出資日と、相続・贈与の課税時期を並べる。
- 取引前後の株主一覧、関係者と議決権の資料をそろえる。
- 売却代金、税・費用、再出資、借入れを会社と個人で分けて記録する。
- 各会社の決算と資産内訳、設立時期、契約、公表資料を用意する。
- 事業承継の目的、経営権、必要資金を示し、評価の前提と未確認事項を残す。
まず「いつ、誰が、どの財産を持つか」を確かめることが出発点です。評価が下がることを前提に手続きを決めず、取引の実態と課税時期の資料から検討しましょう。税制改正の検討資料や解説を読む際も、提案の段階か、すでに適用される規定かを区別してください。


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