経理や確定申告の作業で生成AIを使うとき、「会社の数字や顧客情報を入力して大丈夫なのか?」という疑問に、公認会計士・税理士の視点でお答えします。この記事では、入力してはいけない情報の見分け方と、情報漏えいを防ぎながら安全に活用するための5つのルールを解説します。
①なぜ経理×生成AIでセキュリティ対策が重要なのか?
ChatGPTやClaudeなどの生成AIは、仕訳の相談や資料作成の下書きなど、経理の仕事と非常に相性が良いツールです。実際、私の周りでも「請求書の文面をAIに作ってもらった」「勘定科目に迷ったらAIに聞いている」という声をよく耳にするようになりました。
一方で、経理が扱うデータは機密情報のかたまりです。取引先の名前と取引金額、従業員の給与、マイナンバー、決算前の未公開の数字。これらを何も考えずにAIの入力欄に貼り付けてしまうと、社外のサーバーに会社の機密を送信したことになります。
重要なのは、「AIを使わない」ことではなく「入力してよい情報とダメな情報を分ける」ことです。ルールさえ決めれば、生成AIは経理の強力な味方になります。

ChatGPTに仕訳の相談をしたいんだが、会社の数字をそのまま入れていいのか不安なんだよな…

その感覚、正解なんですよ!全部ダメなのではなく「入れていい情報」と「ダメな情報」の線引きを知れば、安心して使えます!
②生成AIに入力した情報はどこへ行く?基本の仕組み
セキュリティを考える前提として、生成AIに入力した文章がどう扱われるかを知っておきましょう。ポイントは2つです。
入力内容は外部のサーバーに送信される
生成AIはあなたのパソコンの中で動いているわけではなく、入力した文章は運営会社のサーバーに送られて処理されます。つまり、AIへの入力は「社外への情報送信」と同じ意味を持ちます。メールで社外に送れない情報は、AIにも入力すべきではない、というのが基本の考え方です。
「学習に使われる」とはどういうことか
サービスやプランによっては、入力内容がAIの学習データとして利用されることがあります。学習に使われると、将来、他の利用者への回答に自社の情報の断片が反映されてしまう可能性がゼロではありません。多くのサービスでは、設定や契約プランによって学習利用を止める(オプトアウトする)ことができます。
| 利用形態 | 特徴 | 業務利用の目安 |
|---|---|---|
| 無料の個人向けプラン | 入力内容が学習に使われる設定が初期状態のことが多い | 機密情報の入力は避ける |
| 有料の個人向けプラン | 学習利用を設定でオフにできる場合が多い | 設定確認のうえ、マスキングして利用 |
| 法人向けプラン・API | 入力内容を学習に使わない契約が一般的 | 業務利用の本命。それでも社内ルールは必要 |

無料版と法人向けで、そんなに扱いが違うのか!

ここが一番の分かれ目なんですよ!仕事で本格的に使うなら、学習に使われないプランや設定を選ぶのが大前提です!
③入力してはいけない情報の具体例
では具体的に、経理の現場で「入力NG」となる情報を整理します。迷ったときは「この情報が漏れたら誰かに損害が出るか?」を基準に判断してください。
| 区分 | 具体例 | NGの理由 |
|---|---|---|
| 個人情報 | マイナンバー、氏名と紐づく給与・住所 | 個人情報保護法上の漏えいリスクに直結 |
| 認証情報 | パスワード、会計ソフトのログイン情報、APIキー | 不正アクセスの入口になる |
| 未公開の財務情報 | 決算発表前の業績、資金繰りの実数 | 信用不安・インサイダーの問題につながる |
| 取引先の機密 | 契約条件、仕入価格、顧客リスト | 秘密保持契約(NDA)違反になり得る |
逆に、次のような使い方であれば機密情報を含まないため、安心して活用できます。
- 「売上と雑収入の違いは?」といった一般的な質問
- 実名や実数値をダミーに置き換えたデータでの相談
- すでに公開されている決算書や法令など公開情報の要約・解説
- 請求書の文面やメールのひな形づくり

なるほど、「質問の仕方」を変えれば、機密を入れなくても相談できるんだな。

その通りです!経理の相談ごとの9割は、実名や実数値がなくても十分に答えが得られるんですよ!
④安全に使うための5つのルール
ここまでの内容を、実務でそのまま使える5つのルールにまとめます。この順番で整えるのがお勧めです。
- 学習に使われないプラン・設定を選ぶ:業務利用は法人向けプランか、学習利用をオフにできる設定が大前提
- 実名・実数値はマスキングして入力する:「A社」「B銀行」「約1,000万円」のように置き換える
- 無料の個人アカウントで業務データを扱わない:会社として契約したアカウントに一本化する
- 社内ルールを1枚にまとめる:「入力してよい情報・ダメな情報」の一覧を作り全員に共有する
- AIの回答は必ず人が確認する:特に税務の回答は、国税庁の情報や専門家への確認とセットで使う
特に4つ目の社内ルールは重要です。ルールがないと、従業員が良かれと思って個人のスマホから機密を入力してしまう、いわゆるシャドーAI(会社が把握していないAI利用)が発生します。禁止するのではなく、「安全な使い方」を会社が用意することが最大の防御策です。

ルールを作るといっても、何十ページもある規程を作るのは無理だぞ…

A4用紙1枚で十分なんですよ!「NG情報の一覧」と「使ってよいアカウント」の2点が書いてあるだけで、事故の大半は防げます!
⑤よくある間違い・注意点
実際の相談の中でよく見かける、危険な思い込みを紹介します。
「履歴を削除したから大丈夫」ではない
チャット履歴を消しても、送信済みのデータがサーバー側でどう扱われたかは別の問題です。「送ってから消す」のではなく「そもそも送らない」が原則です。
スクリーンショットにも機密は写っている
文章だけでなく、画像の読み取り機能に会計ソフトの画面や請求書をアップロードするケースが増えています。画像の中の氏名・口座番号・金額も立派な機密情報です。テキストと同じ基準で判断してください。
AIの税務回答をそのまま信じない
生成AIは、実在しない条文や古い税制をもっともらしく答えてしまうことがあります(ハルシネーションと呼ばれます)。税務の判断は、必ず国税庁の公式情報や税理士への確認とセットで行いましょう。

AIが自信満々に間違えることがあるのか。怖いな…

だからこそ「下書きはAI、最終判断は人」という役割分担なんですよ!これはセキュリティと並ぶ生成AI活用の鉄則です!
⑥ここまでやれば安心!経理での実践的な活用法
ルールを整えたうえで、経理業務で安全に使える活用例を紹介します。
- 勘定科目の相談:「ウェブ広告の出稿費用の勘定科目は?」など、一般化した質問に
- マスキングした仕訳データのチェック:実名をA社・B社に置き換えて異常がないか相談
- Excel関数・スプレッドシートの数式作成:集計表の関数を日本語で依頼
- メール・依頼文の下書き:取引先への支払確認メールなどのひな形作成
- 制度改正の概要整理:公開情報をもとにした要点の整理(最終確認は公式情報で)
セキュリティの考え方をさらに深めたい方は、独立行政法人のIPA(情報処理推進機構)や個人情報保護委員会が公開している資料が参考になります。また、AIサービス側の仕様はClaude公式ドキュメントのような一次情報で確認するのが確実です。

マスキングさえ覚えれば、思ったより幅広く使えるんだな!

そうなんですよ!「守り」を先に固めた会社ほど、結果的にAIを大胆に活用できるようになります!
⑦公認会計士としての実体験
私自身、業務で生成AIを日常的に使っていますが、顧問先の実名データは一切入力しない運用を徹底しています。仕訳の相談は「A社への支払」「B銀行からの借入」と置き換えて質問しますが、それで回答の質が落ちると感じたことはほとんどありません。一度、関与先の経理担当の方が無料アカウントに取引先名入りのデータを貼り付けていたのを見つけ、その場でルール作りをお手伝いしたことがあります。禁止ではなく「安全な使い方を先に用意する」ことが、結局いちばんの近道だと実感しています。
keio-samurai(公認会計士・税理士)
⑧まとめ
生成AIを経理で安全に使うためのポイントを整理します。
- AIへの入力は社外への情報送信と同じ。メールで送れない情報は入力しない
- 業務利用は学習に使われないプラン・設定が大前提
- マイナンバー・パスワード・未公開の財務情報・取引先の機密は入力NG
- 実名・実数値はマスキングすれば、相談の幅は大きく広がる
- A4・1枚の社内ルールと「最終判断は人」の原則で、事故の大半は防げる
安全な使い方の土台ができたら、次は活用の幅を広げていきましょう。関連記事:エージェント型AIとマネーフォワード会計・freee会計の活用事例、Claude AIで確定申告・帳簿作成が変わった 実際に試した率直な感想もあわせてご覧ください。

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