厚生年金の負担が大きいと、「何歳で国民年金へ切り替えると得なのか」と考えたくなります。ただし、会社員が加入条件を満たしている間は、保険料が高いという理由だけで厚生年金を脱退できません。まず加入する制度を確認し、そのうえで退職・働き方・将来の年金を比べる順序が大切です。
この記事では、標準報酬月額の上限、本人負担の計算、退職後の手続き、年金見込額を調べる方法を整理します。特定の年齢で退職を勧める内容ではありません。

上限まで払っていたら、途中から払い損になるのか?

加入期間と報酬に応じて年金額も変わります。負担だけを見て、得になる年齢を一つに決めることはできないんです。
厚生年金の上限は何の上限か
厚生年金保険料は、給与の実額そのものではなく、一定の幅に区分した「標準報酬月額」を使って計算します。残業代なども報酬の対象になり、基本給だけで決まるわけではありません。賞与は標準賞与額で別に計算するため、月給の上限と年収全体の上限を混同しないでください。
2026年11月時点の標準報酬月額の上限は65万円です。厚生年金の保険料率18.3%を労使で折半する一般的なケースでは、本人負担率は9.15%になります。健康保険や介護保険、雇用保険はこの計算に含めません。給与明細の「社会保険料合計」と比べるときは内訳を分けましょう。
| 標準報酬月額の例 | 厚生年金の本人負担・月額 | 12か月分の単純合計 |
|---|---|---|
| 30万円 | 27,450円 | 329,400円 |
| 50万円 | 45,750円 | 549,000円 |
| 65万円 | 59,475円 | 713,700円 |
計算は標準報酬月額×9.15%です。賞与分や年度途中の改定は除いた例で、実際の控除額は勤務先に確認します。給与の支払月と、何月分を控除するかがずれることもあります。
出典・確認先:日本年金機構・厚生年金保険料額表(2026年11月5日確認)。
2027年以降は上限の引上げ予定にも注意
上限を65万円のまま固定して老後の試算をすると、将来の負担を小さく見積もる可能性があります。制度改正では、上限を2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へ段階的に引き上げる予定です。対象となる報酬水準なら、保険料と将来の報酬比例部分の両方に影響します。
「今の給与なら今後も同額」と考えず、退職予定年の制度と勤務先の標準報酬を確認しましょう。上限引上げは、全員の給与から一律に追加額を引く仕組みではありません。もともとの標準報酬が上限に届かない人は、上限変更だけで直ちに同じ影響を受けるわけではありません。
出典・確認先:厚生労働省・年金制度改正の概要(2026年11月5日確認)。
何歳から損かを一つの割り算で決めない
保険料は毎月支払う一方、老齢厚生年金は原則として受給開始後に年額で受け取ります。単純に「1年の保険料÷年金の増加額」を計算しても、それだけでは加入を続けるかの答えになりません。会社負担、障害・遺族に対する保障、税負担、働いて得る給与、退職で失う収入などが抜けるためです。
例えば、毎月の手取りが保険料の分だけ増えそうでも、退職によって給与そのものがなくなれば家計は大きく変わります。健康保険を国保に変える負担や、住民税の支払時期も考慮が必要です。国民年金の保険料だけを厚生年金と並べ、「安い方を自由に選べる」と考える比較は成り立ちません。
「55歳から損」「60歳で切替が最適」といった一律の年齢には根拠を置けません。加入歴、配偶者、働く期間、繰上げ・繰下げの選択などで結果が変わるため、まず自分の年金記録で比べます。
退職したときの制度は年齢と次の働き方で変わる
| 退職後の状態 | 最初に確認すること | 注意点 |
|---|---|---|
| 別の会社で加入条件を満たして働く | 次の勤務先の厚生年金加入日 | 空白期間の有無も確認 |
| 国内居住の20歳以上60歳未満で自営・無職など | 国民年金第1号への変更 | 配偶者の扶養等により取扱いが異なる |
| 60歳以上で厚生年金に加入しない | 国民年金の任意加入などの対象か | 一律の強制加入ではない |
| 働きながら60歳を迎える | 引き続き厚生年金の対象か | 60歳の誕生日だけで自動脱退しない |
第3号被保険者に該当する場合は、配偶者の勤務先を通す手続きが必要です。健康保険の扶養になれることと、国民年金第3号になれることは、年齢などの条件が同じとは限りません。60歳以降の任意加入にも条件があり、希望すれば誰でも同じ期間加入できるわけではありません。
勤務先から受け取る資格喪失関係の書類と、次の加入日を照らし合わせましょう。保険料を払いたくないから手続きしない、という対応は未納や保障の空白につながります。支払が難しい場合は、国民年金の免除・猶予制度について窓口で相談してください。
出典・確認先:日本年金機構・会社を退職したとき(2026年11月5日確認)。
判断の前に確認を具体的にする
家計の比較例として、退職で月5万円の保険料が減る一方、給与の手取りを月25万円失うと仮定すると、差引きでは月20万円の収入減です。さらに退職後の保険や税の負担が別に必要なら、その分も加えます。これは架空の例ですが、保険料を減らすこと自体を目的にせず、収入全体を見る必要が分かります。
配偶者がいる場合は、本人の年金だけでなく、世帯の年金受給開始までの支出も並べます。住宅ローンや教育費の支払時期が重なるなら、年金の損得だけでは判断できません。家計に必要な現金を確保したうえで、働く時間や退職時期を検討しましょう。
年金の見込額は、現時点の記録と入力した将来条件に基づく試算です。昇給や賞与、離職期間が変わったら更新し、数年前の試算を確定額のように使い続けないことが大切です。
ねんきんネットで二つの働き方を比べる
- 現在の加入記録に抜けや報酬の誤りがないか確認する。
- 予定どおり働くケースと、退職・収入変更をするケースを分ける。
- 各ケースの給与収入、社会保険料、税金、年金見込額を同じ期間で並べる。
- 退職後に必要な生活費と、年金受給までの資金を計算する。
- 制度上分からない部分は、年金事務所や勤務先の担当者に確認する。
家計表は「今年の手取り」と「老後の見込額」を別の欄にします。年金の増加額だけを見れば働くほど有利に見えますが、健康状態や希望する生活時間も大切です。逆に、今月の保険料だけを見れば退職が有利に見えても、数年間の給与や賞与を失う影響の方が大きい場合があります。
賞与を含む見込額や、生年月日による計算の違いは、一般的な記事の概算では拾いきれません。将来受け取る額を確定額のように扱わず、条件を変えながら試算することが必要です。見込額の確認日も家計表に残しておくと、制度や働き方が変わったときに見直しやすくなります。
よくある疑問
上限に達したら年金は増えないのでしょうか。同じ月の標準報酬には上限がありますが、加入月数が増えれば報酬比例部分の計算に反映されます。「給与が上がってもその月の上限超過分は反映されない」ことと、「加入を続けても増えない」ことは別です。
国民年金に切り替える手続きを先にすれば脱退できますか。実際の勤務・加入要件が優先されるので、書類だけで任意に制度を選ぶことはできません。退職日や再就職日が決まった段階で、必要な届出を確認します。
まずは給与明細の標準報酬と厚生年金控除額を確認し、ねんきんネットの記録と突き合わせてください。「得になる年齢探し」から、「自分の条件で二つの働き方を比べる」作業に変えると、判断の材料が具体的になります。
関連記事:退職日と税金・社会保険の確認手順。


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