海外の企業や外国に住む人に対して報酬やロイヤルティを支払うとき、「日本で源泉徴収が必要なのか?」と迷う場面があります。その判断のカギを握るのが、所得税法161条1項(国内源泉所得)と同162条(租税条約による読み替え)です。この記事では、両条文の関係と租税条約とのつながりを、公認会計士・税理士の視点でわかりやすく解説します。
①なぜ「国内源泉所得」と租税条約が重要なのか?
非居住者(外国に住む個人)や外国法人に対して日本が課税できるのは、原則として「国内源泉所得」、つまり日本国内に源泉がある所得に限られます。どの所得が国内源泉所得にあたるかを定めているのが所得税法161条1項です。
ところが、日本が各国と結ぶ租税条約には、国内法とは異なる源泉地のルールが定められていることがあります。このとき、国内法と条約のどちらを優先するのかを調整するのが162条です。国際取引の課税・源泉徴収を正しく行うには、この2つの条文の関係を理解しておく必要があります。

外国の会社への支払いなのに、なぜ日本で税金がかかるんだ?

その所得の「源泉」が日本にあるかどうかがポイントなんですよ。だから国内源泉所得の判定がとても大切なんです!
②所得税法161条1項とは?(国内源泉所得の定義)
所得税法161条1項は、非居住者・外国法人に対して日本が課税できる「国内源泉所得」を各号に列挙した規定です。2014年度・2016年度の改正で、OECDのモデルに沿った「恒久的施設(PE)帰属所得」を軸とする体系に整理されました。
その先頭(1号)に置かれているのが恒久的施設帰属所得です。これは、外国法人などが日本国内に持つ支店などの拠点(PE)に帰せられる所得を指します。以下、各種の所得類型が続きます。
③161条1項に列挙される主な国内源泉所得
161条1項には、代表的なものとして次のような所得が列挙されています(表記は概要です)。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 恒久的施設帰属所得 | 国内のPEに帰せられる所得 |
| 資産の運用・保有・譲渡 | 国内にある資産から生じる所得 |
| 人的役務の提供事業の対価 | 国内で行う人的役務提供事業の対価 |
| 不動産等の貸付けの対価 | 国内の不動産・不動産上の権利の賃貸料 |
| 利子等・配当等 | 国内の債券利子、内国法人からの配当など |
| 貸付金利子・使用料等 | 国内業務に係る貸付金利子、著作権・特許権等の使用料 |
| 給与・報酬・公的年金等 | 国内で行う勤務等に基づく給与など |
このほかにも、事業の広告宣伝のための賞金や、匿名組合契約に基づく利益の分配などが定められています。正確な条文はe-Gov法令検索(所得税法)で確認できます。
④所得税法162条とは?(租税条約による読み替え)
所得税法162条は、正式には「租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得」という見出しの規定です。ポイントを一言でいうと、次のとおりです。
租税条約が国内源泉所得について161条と異なる定めを置いている場合、その条約の適用を受ける者については、161条にかかわらず条約の定めるところによる(=条約のルールに読み替える)。
所得税法162条の趣旨(要約)
つまり162条は、「条約が国内法に優先する」ことを所得税法の中で具体的に実現する規定です。憲法98条2項が定める条約遵守の原則を、源泉地ルールのレベルで受けているものと理解するとわかりやすいでしょう。

国内法で決めていても、条約があればそっちが勝つのか。

そのとおりです。162条があるおかげで、条約のソースルールにきちんと読み替えられるんですよ!
⑤具体例:使用料の「源泉地」ルール
161条と162条の関係が実務で問題になりやすいのが、使用料(ロイヤルティ)や利子の源泉地判定です。源泉地の考え方には、大きく次の2つがあります。
- 使用地主義:その権利が「使われた場所」を源泉地とする考え方
- 債務者主義:その対価を「支払う者(債務者)の居住地」を源泉地とする考え方
国内法と条約で採用する考え方が異なる場合、162条によって条約のルールに読み替えて源泉地を判定します。その結果、日本での源泉徴収の要否や税率(軽減税率・免税)が変わることがあります。判断を誤ると、源泉徴収漏れや過大徴収につながるため注意が必要です。
なお、租税条約の適用を受けるには、原則として「租税条約に関する届出書」の提出が必要です。手続きの詳細は国税庁や財務省(租税条約)のサイトで確認しましょう。
⑥実務上のポイント
- まず国内法(161条)で国内源泉所得かを判定する
- 相手国との租税条約の有無と内容を確認する
- 条約に異なる定めがあれば162条で読み替える
- 軽減・免税を受けるための届出書の提出を忘れない
- PE(恒久的施設)の有無で課税範囲が大きく変わる点に留意する
国際課税は改正も多く、条約ごとに内容も異なります。個別の判断は、必ず最新の条文と該当条約にあたって行うことが大切です。
⑦著者の実体験
私自身、公認会計士・税理士として、海外のソフトウェア会社へ支払う使用料の源泉徴収について相談を受けたことがあります。国内法だけを見て「源泉徴収が必要」と判断しかけたのですが、相手国との租税条約を確認すると源泉地ルールが異なり、162条による読み替えの結果、軽減税率が適用できるケースでした。国際取引では「国内法→条約→届出」の順で丁寧に確認することの大切さを、あらためて実感した案件です。
keio-samurai(公認会計士・税理士)
⑧まとめ
所得税法161条1項・162条と租税条約の関係について解説しました。ポイントを整理します。
- 非居住者・外国法人への課税は原則国内源泉所得に限られる
- 161条1項が国内源泉所得を各号に列挙(先頭はPE帰属所得)
- 162条は、条約に異なる定めがあれば条約が優先することを定める読み替え規定
- 使用料・利子の源泉地ルール(使用地主義/債務者主義)で差が出やすい
- 実務は「国内法→租税条約→届出書」の順で確認する
国際課税は難解に見えますが、「まず国内法で判定し、条約で調整する」という大きな流れをつかめば理解しやすくなります。判断に迷うときは、最新の条文と該当租税条約を確認し、専門家に相談しながら進めましょう。

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