海外法律事務所への報酬に源泉徴収は必要?161条6号と日英条約

会計

日本の法律事務所が、海外の法律事務所に仕事を依頼して報酬を支払う——このとき、「日本で源泉徴収が必要なのか?」という論点が生じます。カギを握るのが所得税法161条1項6号(人的役務提供事業の対価)日英租税条約7条(事業所得)です。この記事では、日本の法律事務所から英国の法律事務所への報酬支払いを例に、その取り扱いを公認会計士・税理士の視点で整理します。

①なぜ源泉徴収が問題になるのか?

非居住者や外国法人に対して「国内源泉所得」を支払う場合、支払者(日本側)に源泉徴収義務が生じることがあります。海外の法律事務所への報酬も、それが日本の国内源泉所得に該当すれば、支払時に一定率を天引きして国に納めなければなりません。

判断を誤ると、源泉徴収漏れ(後日の追徴)や、逆に不要な源泉徴収(相手への過大な負担)につながります。まずは国内法で判定し、次に租税条約で調整する、という順序で考えるのが基本です。

源五郎丸
源五郎丸

海外の事務所への支払いでも、日本で天引きが要るのか?

太郎
太郎

「役務がどこで行われたか」と「日本に拠点があるか」で結論が変わるんですよ。順番に見ていきましょう!

②所得税法161条1項6号とは?(人的役務提供事業の対価)

所得税法161条1項6号は、「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業」を行う者が受ける対価を、国内源泉所得と定めています。政令(所得税法施行令)では、この事業の例として次のようなものが挙げられています。

  • 映画・演劇の俳優、音楽家その他の芸能人、職業運動家の役務提供事業
  • 弁護士、公認会計士、建築士その他の自由職業者の役務提供事業
  • 科学技術・経営管理などの専門的知識や技能を活用した役務提供事業

弁護士による法律サービスは、この「自由職業者の役務提供事業」に含まれ得ます。ただし、重要なのは条文の冒頭にある「国内において」という要件です。

③ポイントは「役務がどこで提供されたか」

6号が国内源泉所得となるのは、あくまで役務の提供が「日本国内で」行われた場合です。したがって、次のように分かれます。

役務提供の場所国内法(161条1項6号)の扱い
英国の事務所が英国内で助言・書面作成国内源泉所得に該当しない(源泉徴収の対象外)
英国の弁護士が来日し、日本国内で役務提供国内源泉所得に該当し得る(原則20.42%の源泉徴収対象)

つまり、海外の事務所が現地で完結して行う一般的な法律サービスは、そもそも国内源泉所得に当たらず、日本での源泉徴収は不要となるのが原則です。一方、来日して日本国内で役務を行う場合は、国内法上の源泉徴収が問題になります。ここで登場するのが租税条約です。

④日英租税条約7条(事業所得)とPE

日英租税条約の第7条は「事業所得(Business Profits)」に関する規定です。OECDモデルに沿った現行の日英条約では、かつての「自由職業所得」の独立規定が廃止され、弁護士など専門職の役務提供も原則としてこの事業所得の枠組みで扱われます。

一方の締約国(英国)の企業の事業所得は、その企業が他方の締約国(日本)内にある恒久的施設(PE)を通じて事業を行わない限り、日本では課税されない。

日英租税条約7条の趣旨(要約)

ここでの恒久的施設(PE)とは、支店や事務所など、日本国内で事業を行う一定の拠点のことです。英国の法律事務所が日本にPEを持っていなければ、たとえ国内法で課税対象となる場面でも、条約7条によって日本では課税されない(=源泉徴収も不要)という結論になります。

そして、この条約のルールを国内法に反映させているのが所得税法162条(租税条約による読み替え)です。条約に異なる定めがあれば、条約が優先されます。

⑤結論:日本の法律事務所→英国の法律事務所への報酬

以上をまとめると、ケース別の取り扱いは次のようになります(いずれも英国事務所が日本にPEを持たない前提)。

  • ケースA:英国内で役務が完結する場合
    そもそも国内源泉所得に該当せず、源泉徴収は不要
  • ケースB:英国弁護士が来日して日本国内で役務提供した場合
    国内法(6号)では源泉徴収の対象となり得るが、日英租税条約7条により日本では課税されず、届出書の提出で源泉徴収は不要となる。

いずれのケースでも、最終的な結論は「日本での源泉徴収は原則不要」となることが多いですが、前提(役務提供地・PEの有無・契約内容)が変われば結論も変わります。必ず個別の事実関係を確認してください。

源五郎丸
源五郎丸

結局、たいていは源泉徴収しなくていいのか。でも手続きは要るんだな?

太郎
太郎

そうなんです。条約の免税を受けるには「租税条約に関する届出書」が必要になる点に注意です!

⑥実務対応のポイント

  1. 役務の提供場所を確認する(英国内で完結か、来日ありか)
  2. 英国事務所が日本にPEを持たないか確認する
  3. 国内法(161条1項6号)で国内源泉所得かを判定する
  4. 日英租税条約7条の適用を確認する(162条で読み替え)
  5. 条約の適用を受けるなら「租税条約に関する届出書」を準備・提出する
  6. 契約書・請求書で役務内容と提供地を明確にしておく

条文や条約の詳細は、e-Gov法令検索(所得税法)国税庁財務省(租税条約)で確認できます。

⑦著者の実体験

私自身、公認会計士・税理士として、国内企業が海外の専門家へ支払う報酬の源泉徴収についてご相談を受けたことがあります。国内法の条文だけを見ると「源泉徴収が必要では」と身構えてしまいがちですが、実際には役務の提供地や相手の拠点(PE)の有無、そして租税条約の内容を確認すると、源泉徴収が不要になるケースが少なくありません。大切なのは、思い込みで判断せず「国内法→条約→届出」の順に事実を一つずつ確認することだと、実務を通じて痛感しています。

keio-samurai(公認会計士・税理士)

⑧まとめ

日本の法律事務所から海外(英国)の法律事務所への報酬支払いの取り扱いを整理しました。ポイントは次のとおりです。

  • 161条1項6号は「国内において」行う人的役務提供事業の対価を国内源泉所得とする
  • 英国内で完結する法律サービスは、そもそも国内源泉所得に該当しない
  • 来日して国内で役務提供しても、日英租税条約7条によりPEがなければ日本で課税されない
  • 条約優先は所得税法162条の読み替えによる
  • 条約の免税を受けるには「租税条約に関する届出書」の提出が必要

国際的な報酬支払いは、国内法だけで判断すると誤りやすい分野です。役務提供地・PE・租税条約を丁寧に確認し、迷うときは専門家に相談しながら進めましょう。なお、本記事は一般的な整理であり、個別の判断は最新の条文・条約と具体的な事実関係にもとづいて行ってください。

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