相続税・贈与税・相続時精算課税を図解

会計

「相続税と贈与税はどう違う?」「相続時精算課税なら2,500万円まで税金がかからない?」という疑問に、公認会計士・税理士の視点でお答えします。

相続時精算課税は、贈与税の計算方法の一つです。贈与時と相続時をつなげて考える制度と理解すると、3つの関係が整理できます。まずは図で全体像を見て、金額の例で確かめましょう。

制度確認日:2026年10月16日。国税庁の令和8年4月1日現在の解説等を参照しています。以下は国内の個人間の贈与を想定した基本説明です。

①なぜ相続税と贈与税を一緒に考えるのか?

源五郎丸
源五郎丸

生きているうちに渡せば、相続税はなくなるの?

太郎
太郎

贈与税がかかる場合があり、相続時に贈与分を計算へ戻すこともあります。渡した年と相続時の両方を見ましょう。

家族に財産を渡す場面は、大きく「生前に渡す」と「亡くなった後に引き継ぐ」に分かれます。生前の贈与には贈与税、相続や遺贈には相続税が関係します。ただし、両者は完全に別々ではありません。

  • 贈与税がゼロでも、将来の相続税の計算に加える場合がある。
  • 相続時精算課税を選ぶと、毎年の贈与の記録が将来の相続税計算につながる。
  • 制度の選択は、家族全体の財産や必要な生活資金も含めて考える。
図1|相続税・贈与税・相続時精算課税の関係
家族へ財産を渡す
生前に渡す → 贈与税
計算方法① 暦年課税
1年ごとに贈与税を計算

または

計算方法② 相続時精算課税
贈与時に計算し、相続時に精算
亡くなった後に引き継ぐ
相続税
遺産+加算対象となる生前贈与で計算

左の①と②は選択肢です。①の後に②を順番に使うという意味ではありません。相続時精算課税は贈与税と別の税金ではありません。

出典:国税庁「贈与税がかかる場合」

②基本を整理:相続税と2つの贈与税の計算方法

源五郎丸
源五郎丸

相続税は、遺産をもらえば必ずかかる?

太郎
太郎

基礎控除があります。生前贈与の加算なども反映して、課税対象となる財産を確認します。

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。例えば法定相続人が子2人なら4,200万円です。これは、家族全体の相続税計算で使う枠であり、子1人につき4,200万円ではありません。

相続税を考えるときは、死亡時に残った預金や不動産だけでなく、生前贈与の加算や債務なども確認します。特例を使って納税額がゼロになる場合でも、申告が必要なことがあります。

出典:国税庁「相続税がかかる場合」

比較する点暦年課税相続時精算課税(2024年以後の贈与)
位置づけ贈与税を1年ごとに計算する方法贈与税を計算し、将来の相続税と精算する方法
年110万円受け取る人ごとに、その年の暦年課税の贈与を合計して適用受け取る人ごとに、その年の精算課税の贈与を合計して適用。複数の贈与者なら按分
累計2,500万円この特別控除はない選択した贈与者ごとに、使い残しを翌年以後へ繰り越す
贈与税率控除後の金額などに応じた税率年110万円と特別控除の残額を超えた部分に一律20%
相続時一定期間内の贈与が加算対象となる場合がある年110万円を除いた部分は原則として期間にかかわらず加算
制度の変更要件を満たせば精算課税を選択できる同じ贈与者について暦年課税へ戻せない

父からの贈与は相続時精算課税、母からの贈与は暦年課税という選択も可能です。その場合、2つの年110万円は別枠ですが、同じ贈与に両方の110万円を使うことはできません。

出典:国税庁「相続時精算課税の選択」

③図解:年110万円と累計2,500万円の違い

源五郎丸
源五郎丸

2,500万円までは、相続税もずっとゼロ?

太郎
太郎

そこが誤解しやすい点です。2,500万円の枠を使った分も、原則として相続時の計算に加わります。

次の例では、2026年に父から成人した子へ現金1,000万円を贈与し、相続時精算課税を選びます。選択要件を満たし、父について特別控除は未使用、同年の他の贈与はなく、必要な届出と期限内申告をするものとします。

図2|1,000万円の贈与を2つの枠に分ける
2026年に1,000万円を贈与
110万円
その年の基礎控除
相続時にも加算しない
890万円
累計2,500万円の特別控除を使用
相続時には原則890万円を加算
贈与税:0円
特別控除の残り:2,500万円−890万円=1,610万円

面積は金額の比率を示していません。年110万円と特別控除は、相続時の扱いが異なる点に注目してください。

贈与時の税金がゼロでも、将来の相続税までゼロと決まったわけではありません。相続税計算に加えるのは、お金そのものを返すという意味ではなく、税金を計算するために贈与分の金額を足すという意味です。

同じ条件で3,000万円を贈与するなら、(3,000万円−110万円−2,500万円)×20%=78万円の贈与税です。相続時に原則加算する額は2,890万円。納めた78万円は相続税から差し引き、控除しきれない場合は相続税の申告により還付を受けられます。

なお、年110万円の基礎控除は2024年1月1日以後の贈与が対象です。2023年以前に精算課税で受けた贈与には、さかのぼって適用されません。

出典:国税庁「贈与税の計算(相続時精算課税の選択をした場合)」

④相続時にどう精算する?計算の順番

源五郎丸
源五郎丸

父が亡くなった時に4,000万円残っていたら?

太郎
太郎

先ほどの890万円を足して考えます。残っている財産だけで相続税の要否を判断しないようにしましょう。

図2の贈与後、父が亡くなり、相続時の正味の財産が4,000万円、法定相続人が子2人だったとします。他の贈与、非課税財産や特例などの影響を省いた説明用の例です。

  • ① 相続時の正味の財産4,000万円に、精算課税の贈与分890万円を足す。合計は4,890万円。
  • ② 基礎控除4,200万円(3,000万円+600万円×2人)を差し引く。課税遺産総額は690万円。
  • ③ 法定相続分で仮に分けて相続税の総額を計算し、実際の取得割合などに応じて各人へ配分する。
  • ④ 各人の税額控除などを反映し、精算課税で既に納めた贈与税があれば差し引く。

690万円は税額ではなく、相続税計算の出発点となる課税遺産総額です。また、この例では贈与税がゼロだったので、精算課税の贈与税額控除もゼロです。

相続時精算課税で加算する価額は、原則として贈与時の価額です。「亡くなった時に値下がりしていたから、その時の安い価額で計算できる」とは限りません。

相続時精算課税を選んだだけで必ず相続税の申告が必要になるわけでもありません。加算後の財産額と基礎控除、利用する特例、還付の有無などで判断します。

出典:国税庁「相続税の計算」

出典:国税庁「相続時精算課税の選択と相続税の申告義務」

⑤よくある間違い:暦年課税の110万円も要注意

源五郎丸
源五郎丸

普通の贈与なら、年110万円以下は相続税にも関係しない?

太郎
太郎

相続などで財産を受け取る人は、一定期間内の贈与を加算する場合があります。2026年の相続は原則3年以内が対象です。

暦年課税の生前贈与を、相続税の計算に加えることを、ここでは「持ち戻し」と呼びます。すべての人の贈与が対象になるわけではなく、相続・遺贈や相続時精算課税に係る贈与で財産を取得した人などが対象です。対象期間内なら、贈与税がかからなかった年110万円以下の贈与も原則加算します。

図3|暦年課税の持ち戻し期間は段階的に延びる
2026年12月31日までの相続
死亡日からさかのぼって3年以内
2027年〜2030年の相続
2024年1月1日から死亡日まで
2031年1月1日以後の相続
死亡日からさかのぼって7年以内

相続が始まった日で対象期間が変わります。精算課税の「年110万円を除いた贈与分」の加算には、この3年・7年という区切りを使いません。

延長された期間のうち、死亡前3年以内を除く部分には、贈与額の合計から総額100万円を加算しない仕組みがあります。毎年100万円ではありません(2027年1月2日以後の相続に適用)。加算した贈与財産に対応する贈与税は、相続税から控除します。

よくある間違い何が問題か正しい対応
2,500万円まで相続税も非課税贈与時と相続時の計算を混同している年110万円と、相続時に加算する部分を分ける
父母それぞれから精算課税で110万円ずつ受け取れる精算課税の年110万円は受取人ごとの合計枠複数の特定贈与者なら贈与額に応じて按分する
税金ゼロなら届出や申告は不要選択届出や特別控除の期限内申告を見落とす納税額と手続きの要否を別々に確認する
2026年の相続も一律7年を持ち戻す経過措置がある相続開始日から対象期間を確認する
後から暦年課税に戻せばよい同じ贈与者について撤回できない選ぶ前に将来の贈与計画を比較する

出典:国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」

⑥制度を選ぶ前に確認したいこと

源五郎丸
源五郎丸

では、相続時精算課税を選んだ方が得?

太郎
太郎

年110万円だけで決めず、財産の総額や贈与の目的、将来の見通しを確認して選びましょう。

相続時精算課税を選べるのは、原則として贈与する年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母などから、同日に18歳以上の直系卑属である推定相続人または孫への贈与です。年齢要件などに特例もあるため、実際の適用条件を確認してください。

初めて選ぶ年は、年110万円以下でも相続時精算課税選択届出書などの提出が必要です。年110万円を超える精算課税の贈与は、贈与税がゼロでも原則申告が必要で、特別控除は期限内申告が条件です。提出期間は原則、贈与の翌年2月1日〜3月15日。休日による期限の扱いを含め、対象年の国税庁案内で確認しましょう。

  • 贈与する側の生活費・医療費などを残せるか。
  • いつ、誰に、どの財産を渡したいのか。贈与の合意と振込記録を残せるか。
  • 相続財産と過去の贈与を合算すると、基礎控除を超えそうか。
  • 不動産や株式なら、値下がりの可能性や贈与時の評価を確認したか。
  • 同じ贈与者について戻れない点を、家族が理解しているか。

例えば、まとまった資金を子へ早めに渡す目的には制度が役立つ場合があります。一方で、税負担が必ず小さくなるとは限りません。「贈与時の税額」と「相続時まで含めた税額」を分けて比較することが大切です。

出典:国税庁「贈与税がかかる場合」

⑦公認会計士の実体験(例文・公開前に差し替え)

源五郎丸
源五郎丸

相談するとき、何を持っていけばよい?

太郎
太郎

財産一覧と過去の贈与の記録を整理しておくと、比較の前提がそろいます。

※以下は構成を示すための例文で、執筆者本人の実体験ではありません。公開前に、ご本人の経験に書き換えるか、この章を削除してください。

【例文】私が相続や贈与の相談で大切にしたいのは、「今の税金がゼロか」だけで結論を出さないことです。財産の全体像と、家族がいつ資金を必要とするかを整理してから、贈与時と相続時の計算を並べて説明する姿勢を大切にしたいと考えています。

keio-samurai(公認会計士・税理士)

⑧まとめ:3つの関係は「渡す時期」と「精算」で整理

源五郎丸
源五郎丸

最後に、覚えておくポイントは?

太郎
太郎

生前は贈与税、相続時は相続税。精算課税はその橋渡しです。110万円と2,500万円の扱いを分けて覚えましょう。

  • 相続時精算課税は贈与税の計算方法の一つ。将来の相続税とつながっている。
  • 2024年以後の精算課税の年110万円は、相続時の加算対象からも除かれる。
  • 累計2,500万円の特別控除を使った部分は、原則として相続時に加算する。
  • 暦年課税の年110万円以下の贈与も、相続時に持ち戻す場合がある。
  • 選択は贈与者ごと。同じ贈与者について暦年課税へ戻せないため、事前の比較が大切。

制度の仕組みを理解したうえで、ご自身の財産や家族構成に当てはめる際は、税理士などと確認しましょう。最新の制度・申告手続きは、本文中の国税庁の公式情報もご覧ください。

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