「租税条約は世界共通のルールでしょ?」と思われがちですが、実は相手国ごとに中身がまったく違います。この記事では、公認会計士・税理士の視点から、イギリス(日英租税条約)とインド(日印租税条約)の違いを、配当・利子・使用料の限度税率や、インド特有の「技術上の役務(FTS)」課税まで、実務目線でわかりやすく解説します。
①なぜ租税条約の「国ごとの違い」を知る必要があるのか?
海外の企業や個人にお金を支払うとき、日本では源泉徴収(源泉所得税を差し引いて納付すること)が必要になる場面が多くあります。このとき、相手国と日本の間で結ばれた租税条約があれば、税率が下がったり、そもそも課税されなくなったりします。
ところが、この「どれだけ軽くなるか」は相手国ごとにまったく違うのです。同じ「使用料(ロイヤリティ)」の支払いでも、イギリス向けなら税金ゼロ、インド向けなら10%かかる——といったことが普通に起こります。ここを知らずに一律で処理すると、払いすぎ・徴収漏れのどちらも起こり得ます。

えっ、租税条約って国が違っても中身は同じじゃないのか?

いいえ、実は一本ずつ内容が違うんですよ!特にイギリスとインドは「先進国型」と「新興国型」で、考え方から違うんです。
②そもそも租税条約とは?基本のおさらい
租税条約とは、2つの国の間で「同じ所得に二重に課税しないようにしよう」「お互いの税率に上限を設けよう」と取り決めた国どうしの約束です。主な役割は次の2つです。
- 二重課税の排除:日本と相手国の両方で税金を取られないよう調整する
- 源泉税の軽減・免除:配当・利子・使用料などにかかる源泉徴収の税率に上限(限度税率)を設ける
租税条約そのものの仕組みや「限度税率」の考え方は、海外との租税条約とは?仕組みと限度税率を公認会計士が解説でも詳しくまとめています。あわせてご覧ください。

二国間の約束、ということはイギリス用とインド用は別々に結ばれているんだな。

その通りです!だから比べると差がハッキリ出るんですよ。
③日英租税条約の特徴 先進国型で税率が低い
日本とイギリスの租税条約は、OECDモデル租税条約という先進国向けの標準形に近い内容です。特徴は、投資に関わる所得(配当・利子・使用料)の税率がとても低いことです。目安は次のとおりです。
| 所得の種類 | 日英条約の限度税率(目安) |
|---|---|
| 配当 | 0%(親子会社等)〜10% |
| 利子 | 原則0%(一部10%) |
| 使用料(ロイヤリティ) | 0% |
つまりイギリス向けの支払いは、条件を満たせば源泉税がゼロになるケースが多く、企業にとって非常に有利です。ソフトウェアの使用料や特許のライセンス料などが典型例です。
実際の適用例は、海外法律事務所への報酬に源泉徴収は必要?161条6号と日英条約でも取り上げています。

使用料がゼロ!イギリスはずいぶん優しいんだな。

先進国どうしは「お互いに軽くしよう」という発想なんです。次のインドは真逆ですよ。
④日印租税条約の特徴 源泉地国課税が強く「FTS」がある
一方、日本とインドの租税条約は、お金の生まれた国(源泉地国)でしっかり課税するという新興国型の色が濃い内容です。税率はおおむね一律10%で、イギリスより高めに設定されています。
| 所得の種類 | 日印条約の限度税率(目安) |
|---|---|
| 配当 | 10% |
| 利子 | 10% |
| 使用料(ロイヤリティ) | 10% |
| 技術上の役務に対する料金(FTS) | 10% |
インド特有の「FTS(技術上の役務に対する料金)」に要注意
日印条約で特に見落とされやすいのが、FTS(Fees for Technical Services=技術上の役務に対する料金)という項目です。これは、技術的・専門的なコンサルティングや役務提供の対価にも源泉課税を認めるもので、イギリスとの条約には存在しません。
たとえばインド企業に技術指導料やコンサル料を支払う場合、日英条約の感覚で「役務提供だから源泉不要」と考えると危険です。日印条約ではFTSとして10%の源泉徴収が必要になり得ます。

コンサル料にまで税金がかかるのか…イギリスとは全然違うな。

そこがインド案件で一番ミスが多いところなんです。「FTS」という言葉を覚えておいてください!
⑤イギリスとインドはここが違う 比較表でまとめ
両国の違いを一枚の表にまとめると、性格の差がはっきり見えてきます。
| 項目 | イギリス(日英条約) | インド(日印条約) |
|---|---|---|
| タイプ | 先進国型(OECDモデル寄り) | 新興国型(源泉地国課税が強い) |
| 配当 | 0〜10% | 10% |
| 利子 | 原則0% | 10% |
| 使用料 | 0% | 10% |
| 技術役務(FTS)課税 | なし | あり(10%) |
| 実務の傾向 | 源泉税ゼロを狙いやすい | 広く源泉課税がかかる |

こうして並べると一目瞭然だな。同じ「租税条約」でも別物だ。

だから支払先の国を見て、必ず「その国の条約」を確認するのが鉄則なんです。
⑥実務での注意点と活用法
租税条約を実際に使うときのポイントを整理します。
- 支払先の国を最初に確認する:イギリスかインドかで結論が変わります。
- 「租税条約に関する届出書」を提出する:条約の軽減税率を使うには、支払いを受ける相手が原則この届出を出す必要があります。出し忘れると国内法の高い税率で源泉徴収することになります。
- 所得の種類を正しく見分ける:使用料か、役務提供(FTS)か、事業所得かで扱いが変わります。特にインドはFTSに注意。
- 最新の条約本文を確認する:条約は改正されることがあります。金額が大きい取引は必ず原文・国税庁情報で確認しましょう。
国内源泉所得の考え方や届出の位置づけは、国内源泉所得と租税条約の関係とは?所得税法161条・162条を解説で詳しく説明しています。条文の根拠は国税庁のサイトでも確認できます。

届出書を出さないと条約の割引が使えないのか。気をつけないと。

そうなんです。「条約があるのに高い税率で取ってしまった」というミスは、この届出忘れが原因のことが多いんですよ。
⑦公認会計士としての実体験
私自身、顧問先が海外企業へ支払いをする場面で、イギリスとインドを取り違えそうになったことがあります。イギリス向けのソフト使用料は条約で源泉ゼロにできた一方、同じ月にあったインド向けの技術指導料は、FTSとして10%の源泉徴収が必要でした。「同じ役務提供なのに扱いが違う」——ここでつまずく方は本当に多いです。金額が大きい取引ほど、公認会計士として『まず相手国の条約を開く』ことを強くお勧めします。
keio-samurai(公認会計士・税理士)
⑧まとめ
イギリス(日英)とインド(日印)の租税条約は、名前は同じでも中身は大きく異なります。ポイントを整理します。
- イギリスは先進国型:配当・利子・使用料の税率が低く、条件次第で源泉ゼロも狙える。
- インドは新興国型:おおむね一律10%で、源泉地国課税が強い。
- 最大の違いはFTS(技術上の役務):インドにはあり、イギリスにはない。コンサル・技術指導料の源泉に注意。
- 実務の鉄則:支払先の国を確認し、届出書を出し、最新の条約本文で確認する。
関連記事:海外との租税条約とは?仕組みと限度税率を公認会計士が解説、海外法律事務所への報酬に源泉徴収は必要?161条6号と日英条約もあわせてご覧ください。

コメント